かみさまをもらった。
デパートの白く光る誰もいないエレベーターホールで、あれはエレベーターを待っていたのか、なんだったのか、もはや思い出せないけれど、とにかく天井から私の腰の高さぐらいまである大きな窓のそのフレームに浅く腰をかけて呆けていた私を目がけて、どこからか少女は走り寄ってきた。とてもかわいらしい少女で、くっきりした二重のきらきらとした大きな目は、目の見本のような目だった。透明感のある茶色い毛。小さい子の髪の毛は、いつから太く黒くなってしまうのだろう。風に流れて茶色とモスグリーンの間をいったりきたりするその髪の色を眺めながら考えた。
「これあげる。」
少女はそう言って、大事そうに握り締めていた手から素早くそれを私の右手に移した。右手のひらが、ひんやりした。そっと盗み見ると、それは灰色で楕円形のやや平べったい石で、角は無く、きれいに丸みを帯びていた。彼女が秘密裏にそれを受け渡すので、なんだか堂々と手を広げてその場で見てはいけない気がした。突然のことに、私はわけもわからず彼女をじっと見た。見れば見るほど、数日前、いや、いつか、どこかで、偶然に出会ったことのある少女のような気がしてきた。でもどこで?何も思い出せない。
「ねえねえ。名前なんていうの?」
少女の名前を聞いたのだが、石の名前のことだと思ったらしく、彼女は石を指差して答えた。
「かみさま。」
小さな子に突然石を手渡されることまでは割合と平常心で対応できたのだが、さすがに少し動揺した。かみさま。かみさま。しかも彼女がそういうと、雲が流れたのか、窓から光がざあっと差込み、エレベーターホールは光に溢れた。窓の下の方で光に出会い、木々が揺れる。そういえばここは何階なんだっけ。
そうじゃなくて、そうじゃなくて、あなたの名前は?
そう聞こうとしたのに、私が動揺している隙に少女はいなくなっていた。
私の手には、かみさまだけが残された。
8月、白いエレベーターホールで、私はかみさまをもらった。