まあ、もう2年も3年も前の話にいつの間にかなるわけなのですけれども。
別に研究者になるわけでもなく
ただなんとなくベケットで卒論書くのも悪くないし
トロントで身体で覚えた英語もドイトレベルのヤスリなんかじゃ済まない程に赤茶けたし
例えば大人の会話を英語で嗜めるよに
例えばそれで口説いたり口説かれちゃったりしちゃったりしっちゃったりで
なんて
なんだかこう俗っぽいというか
留学というか遊学というか暇つぶしというか暇づくりというか
まさにモラトリアムを体現したようなそんな負け犬的な気分で
「…学費…タダか…」
なんて
ダブリン大学交換留学なんかに応募しちゃって
それで気づいたらあれよあれよという間に決まっちゃって
おいおいおいおいおいおいいいって
なんだけどそんなこと正直に言うのもカッコ悪くて
それで
留学の理由を聞かれるといつも
「妖精と喋れるようになりたいから!」
と、不思議ちゃんぶって言うことに決めていました。
(アイルランドは妖精の国なのです。ケルトですからね。ドリーミーならなんでもありなんです。それもレプリコーンとかがシンボルで。シンボル。国の象徴。国花(日本ならサクラとか)とか国鳥(日本ならキジとか)とか、そういうこと。国の、妖精。国妖精。国精。で、これどんな妖精かっていうと靴屋のおっさんなわけなんだけど。全然かわいくないんだよね。)
っていうわけなんだけど
まあ
信念とか記憶とか感情とか嘘とか事実とかあたしとか宇宙とかみんなまあそうなんだけど
出まかせでも、発語するという身体運動に言葉を還元すると
身体が覚えてしまって、勘違いするわけです。
(勘違い以外にじゃあ人生ってどんなファクターで成り立ってるのって言われたらあたしは結構困ってしまうわけなんだけど)
「妖精と喋れるようになりたいから」ってずっと言ってると
不思議なくらいに都合よく
ほんとに
「妖精と喋れるようになりたいから」アイルランドに行きたい
と
いつしか自分でも思うようになってしまっていたのです。
で
妖精と喋れるようになったかっていうと
それは内緒なのですが。
そんなことより
あたしは自分がちょっとだけ妖精になった気がしていました。当時。
なんていうか
多分見た目は今と大して変わらないか
あとはもうちょっと肌にハリがあったり髪が茶色かったりせいぜいそんなだったんだけど
まあ、一般女子というか
まあ、人間に十二分に見え過ぎるほどにたとえば左手の小指のささくれまで細胞的には人間だったんだけど
とにかく。それでも。
少なくともいくつかの瞬間において、あたしは確実に妖精でした。
そしてそれに関しては、あたしは、あたしにしては珍しく、結構自信があるのです。
うまく言えないけどその頃あたしは身体部分となんかアメーバ状の精神みたいな魂みたいな塊とをうまいこと分離させてそのアメーバを妖精化して好きにヒトを台無しにできたりしていました。
いい意味でね。
実は最近あまり調子がよくなくて
例えば気づくと連休中に延べ25時間、理由も判然としないままただ嗚咽をあげて大量の水分を垂れ流していたり
例えば風邪薬を睡眠薬代わりに飲んでいたら終にいつのまにか一瓶無くなってしまっていたり
例えば小学校の1階から2階の吹き抜け部に忌まわしく気取って渦を巻いていた白い螺旋階段のように
とにかく不快なほどに不調スパイラルで
だんだん腹が立ってきて、しまいには怒り心頭でよくよくこの状況について考えてみたら
唐突に1つ、その事実。は、大きく反動をつけたブランコに乗ったいしいしんじでいう「弟」みたいに顔面に羽毛のように柔らかい殴りこみをかけてきて
1つ確かなこと。
あたしはいつのまにかどんどん妖精じゃなくなっています。
割と想定外のスピードで。
せっかく妖精になれたのに
どんどんどんどんどんどんどんどん。
気づけばあたしは妖精のことなんて全く忘れていたのです。
(こうやってきっと見えなくなるんだ)
台無しにする方法も。勝手にドアを開ける呪文も。受信するイメージの周波数も。魔法のかけ方とか全部。
結構あっけにとられるくらい。
でも、少なくともあたしは今思い出すことができて。
多分もう完全に妖精になれなかったとしても。
なんとなく手遅れではない気がするのです。
これもあたしにしては、割と珍しく、確信を持てるのです。
だからもう一度少しずつ。
何かが完全にスポイルされてしまう前に。
少しずつ、妖精になる方法を思い出そうと思います。
或いは思い出せないのだとしたら、それは新たに手に入れるとして。
回復。しようとはずっとどこかで思っていて。
でも
ズレてたのはちょっとしたことで
すべからく回復すべきだったのは、ストーリーなんかじゃない。
そこにあった魔法だ。
あと、