この国は、眠い国です。
ここに13年以上住んでるボスは、
「きっと空気が薄いのよ」
と、
わけのわからないことを自信満々に言いますが、
とにかく眠いのです。
そしてまたすごいことに、
着いた初日から、あたしは毎晩必ず夢を見ます。
しかもかなり鮮明に。
その中でも強烈だったものの話をします。
人の夢の話は退屈だということはよく知っているので、
かいつまみます。
そのときあたしは、男約2名の相反する言動に、ひどくひどく、疲れきっていました。
それは、週に2回は行くところなのに反対方向のバスに乗ってしまい、
その事実に40分以上も気づかないほどの重症でした。
その疲れがピークに来た日に、
あたしは日本で一番かわいがってた猫とつきあってる夢をみました。
しかも猫は女声でした。
しかもあたしたちは英語で会話してました。
しかもあたしたちはSMごっこをしてました。
国際的獣姦レズSM。
こうやって言葉にするとなんだかどろどろしてますが、
全編藍色がかっていて、静かなヨーロッパ映画のような夢でした。
あたしは彼女を密閉袋にいれて、空気を少しずつ抜いていくというゲームを考え付きました。
その日は外が雨だったので、
そうすればあなたのきれいな白いカラダに泥もはねないし。死なないようにちゃんとした仕組みもついているのよ。
と、絶対喜んでもらえると思ってはりきって報告しました。
でも彼女は興味なさそうでした。
聞いている間ずっと窓に痕を遺す雫たちを眺め、
その冷たい横顔に、あたしは涙がとめどなこぼれそうになるのを押しとどめることで精一杯でした。
もうダメだ
そう思って、
嫌ならいいんだよ、なんかちがうことをしよう
何がいい?あたしどっちでもやるよ
とあたしが言うと、
彼女はゆっくり振り返ってこう言ったのです。
そして、何故かこの言葉だけ日本語だったのです。
「今日は嫌」
あたしはこの言葉に、雷鳴に打たれたように感動したのです。
今まで何度と無く使ってきたこの言葉に。
今日は嫌。今日は嫌。今日は嫌。
なんて美しい配分で絶望と希望が混ざりあっているんだろう。
大した言葉ではないし、今まで何度だってきっと使ってきた。
けれどはっきりと、あたしの体はたしかにそのとき震えたのです。
ありとあらゆる美しいものと
ありとあらゆる相反するものに揺られて。
今日は嫌。ということを、有効に口にできるオンナになろう。
あたしは目覚めた瞬間、思ったのでした。